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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)8777号 判決 1963年10月02日

判   決

東京都世田谷区東玉川町八九番地

原告

八重洲電機産業株式会社

右代表者代表取締役

石井裕士

横浜市鶴見区鶴見町六四番地

原告

小笠原均

東京都大田区仲蒲田二丁目一八番地

原告

本野笑子

右三名訴訟代理人弁護士

佐久間三弥

上山太左久

東京都新宿区柏木一丁目一二五番地

被告

小島屋商事株式会社

右代表者代表取締役

大竹福次

横浜市南区永楽町二丁目二五番地

被告

古屋更生

右両名訴訟代理人弁護士

上原悟

右当事者間の昭和三七年(ワ)第八七七七号損害賠償請求事件について当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

1  被告らは、各自原告八重洲電機産業株式会社(以下「原告会社」という。)に対し金一一五、八三五円、原告小笠原均に対し金一四、六〇〇円、原告本野笑子に対し金一五〇、八四〇円を支払え。

2  原告会社のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告会社の負担とし、その三を被告らの、各平等負担とする。

4  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、「1被告らは各自原告会社に対し金一九三、〇五八円を支払え。2訴訟費用は、被告らの負担とする」との判決および原告本野笑子および原告小笠原均に対しては主文と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、昭和三七年七月四日午前〇時一五分頃東京都大田区池上徳持町九一番地先第二京浜国道千鳥町交差点において訴外佐藤功の運転する原告会社所有のプリンス貨物自動車(第四な一七九九号。以下「原告車」という。)と被告古屋更生の運転する自家用小型四輪自動車(第四に一八八一号。以下「被告車」という。)とが衝突し、その衝突の反動によつて原告車の前頭部が右方に回つたため、原告車の左後部が訴外東京寝台自動車株式会社(以下「訴外会社」という。)所有の営業用四輪自動車(第を一五八〇号。以下「訴外車」という。)の左前部に接触した。右事故によつて原告車に同乗していた原告小笠原均は、顔面挫創、右膝関節部打撲擦過傷、同じく同乗していた原告本野笑子は、顔面挫創、頭蓋内出血の各傷害を受け、また原告車と訴外車は、破損した。

二、(以下省略)

理由

一、請求原因第一項の事実(事故の発生、原告小笠原、同本野の受傷ならびに原告車および訴外車の破損)は、当事者間に争いがない。

二、請求原因第二項の事実(責任原因)のうち、

1  被告会社が被告古屋更生の使用者であつて、本件事故は、被告古屋が被告会社の業務を執行するため被告会社所有の被告車を運転していた時に生じたものであることは、当事者間に争いがない。従つて、

(イ)  被告会社、原告小笠原均、同本野笑子に対して、自動車損害賠償保障法第三条但書の免責事由を主張立証しないかぎり、同法第三条本文の規定により、右原告両名の受けた損害を賠償すべき義務がある。しかして、被告会社は右免責事由を主張立証しないから、右賠償義務を免れることができない。

(ロ)  また被告会社は、被告古屋の使用者として、被告古屋の過失が肯認される場合には、民法第七一五条第一項但書の免責事由を主張立証しないかぎり、同項本文の規定により原告会社および訴外会社の受けた損害を賠償すべき義務がある。

そこで被告古屋の過失の有無について判断する。(証拠―省略)を綜合すれば、訴外佐藤功は、原告車を運転して、下丸子方面から蒲田方面に向つて進行し、事故現場たる交差点にさしかかつたが、交差点の信号機が青色から黄色に変る寸前の状態であつたにもかかわらず、時速約二〇粁の速度で交差点内に進入したところ、進入した直後に交差点の信号が黄色に変つたこと、そのため五反田方面から横浜方面に向う車両で、第一および第二区分帯で信号待ちのため停車していたものは、原告車の通過を認めて、すぐには進行せずにそのままの位置で停車していたこと、しかるに被告車を運転していた被告古屋は、時速約四〇粁乃至四五粁の速度で五反田方面から交差点に向う道路の第三区分帯を疾走し来り、前方の信号が赤色のため先行車が停車したのを認めたにもかかわらず、減速することなく進行し、交差点到達と同時に赤色から青色に変るのを認めるや、すでに他の道路から原告車が進入していたのを不注意にも看過し第一および第二区分帯で停車していた自動車を追越し、そのまま交差点内に進入したこと、そのため交差点を渡り切らんとした原告車は、その左前部を被告車の右前部によつて衝突せしめられ、そのまま被告車にひきずられるような形で歩道に乗り上げ、停車したこと、その結果、五反田方面から右交差点に入る停止線の第二区分帯から進行を始めた訴外車の前部に原告車の左後部を接触せしめたことが認められる。右認定に反する被告古屋の本人尋問の結果の一部は措信することができない。

およそ自動車の運転者は、右のように交差点におけを信号機の信号が赤色のため先行車が停車しているのを認めたときは、手前より速度を減じ、交差点到着と同時に赤色から青色に変つた場合においても、直ちに進行することなく、他の道路から交差点内に進入した自動車が依然交差点内で進行を続けているかどうかを確認しなければならず、もしかかる自動車があるときは自車の進行を停止し又は徐行して、事故の発生を未然に防止すべき安全運転の義務があることは、いうまでもないところ、被告古屋は、前叙のように、右義務を怠り、漫然と被告車を交差点内に進入せしめたため、本件事故を発生せしめたのであつて、本件事故の発生が被告古屋の過失に基因することは明らかである。

しかして、被告会社は、被告古屋の選任およびその事業の執行につき相当の注意をなした旨の主張立証をしないから、原告会社および訴外会社が自動車の破損によつて受けた損害を賠償すべき責任を免れることができない。

2  前叙のとおり、本件事故は、被告古屋の過失に基づくものであるから、同被告は、直接の不法行為者として民法第七〇九条の規定により原告らの受けた損害を賠償すべき義務がある。

三、そこで損害の点について判断する。

(原告小笠原の損害)

1  (証拠―省略)によれば原告小笠原は、本件事故によつて受けた傷害につき治療費として昭和三七年七月二三日金一四、六〇〇円を支出したことが認められる。

(原告本野の損害)

2(一) (証拠―省略)によれば原告本野は、本件事故によつて受けた傷害につき治療費として、昭和三七年七月二六日金三二、九〇〇円を支出したことが認められる。

(二) また(証拠―省略)によれば同原告は、昭和三七年七月四より同月二六日までの間付添看護婦を雇い、その費用金一六、七九〇円を支出したことが認められる。

(三) そして(証拠―省略)によれば、右付添看護婦の食費として金一、一五〇円を支出したことが認められる。

(四) (証拠―省略)によれば、原告本野は、昭和三四年三月山口県立萩高等学校を卒業後、同年五月上京し、昭和三六年五月に原告会社に入社して、本件事故当時は、業務課に勤務し、給料一〇、五〇〇円を受取つていたこと、しかるに本件事故によつて顔面挫創、頭蓋内出血の傷害を受け、昭和三七年七月四日より同月二六日までの二三日間木村病院に入院し、前額部に五針、鼻下部に二針を縫うなどの治療を受けたるも、なお前額部にその傷痕が残り、さらに頭蓋内出血によつて記憶力が減退したばかりでなく、机上において一時間程度勤務するときは、首筋に痛みを覚え、手先がしびれてペンを握れなくなること、そして同原告は、現在二二才の独身の女性として、これらの苦痛にたえ、原告会社の経理課に勤務していることが認められ、他に反対の証拠はない。これら諸般の事情を勘案するときは、原告本野の精神的苦痛に対する慰藉料は、金一〇〇、〇〇〇円を下らないものと認められる。

(原告会社の損害)

3(一) (証拠―省略)によれば、原告会社は、原告車の修理費用として金一七〇、一〇八円を支出したことが認められる。

(二) (証拠―省略)によれば、訴外会社は、本件事故によつて訴外車に損害を受け、その賠償を原告会社に請求したが、原告会社は、本件事故が被告古屋の一方的過失に基因するものであつて、自己に責任なきことを申し入れたこと、そして、種々接渉の結果、昭和三七年八月一四日原告会社が訴外車の修理費用金二二、九五〇円を被告会社に代つて訴外会社に立替払いし、その際、訴外会社が被告会社に対して有する右修理費用額相当の損害賠償債権を訴外会社の同意をえて譲り受け、同年一二月二一日内容証明郵便をもつてその旨を被告会社に通知し、右通知はその頃被告会社に到達したことが認められ、反対の証拠はない。してみると、原告会社は被告会社のため事務管理として訴外会社が受けた損害金二二、九五〇円を支払い、その結果被告会社に対し右損害金相当の費用償還請求権を取得したこと、そして右償還請求権を行使できる範囲内において訴外会社が有する前記損害賠償請求権を訴外会社の同意をえて代位行使しているものと認めるのが相当であり、かつその旨の対抗要件を具備したことは、前記認定のとおりであるから、原告会社は、右損害金二二、九五〇円の支払いを直接被告会社に対して求めることができるものと考えられる。

四、被告らは、本件事故による損害について過失相殺の主張するので考えるに、前叙のように、本件事故は、被告古屋の過失に基因することが明らかであるが、訴外佐藤も青色から黄色に変る寸前に交差点内に進入したのであるから、当然交差点を渡り切る途中で信号が黄色から赤色に変るかもしれぬということを予想すべきであり、従つて、その際他の道路から信号に従つて進行して来る自動車があれば、それとの衝突を避けるべき適宜の措置をとるべき義務があることは、いうまでもない。しかるに訴外佐藤は、右義務を怠つたのであるから、同訴外人の過失も、本件事故発生の一因をなしているものというべきである。しかして事故発生の原因力を被告古屋につき六とすれば、同訴外人について四と考えるのが相当である。

五、以上のしだいであるから、前項の過失相殺か考慮すれば、結局原告、原告会社は、金一一五、八三五円の損害を蒙つたものと認るのが相当である。なお、原告本野および原告小笠原については、原告車の同乗者であるから、前項の過失相殺は問題になる余地はない。原告会社の請求金一一五、八三五円の限度において理由があるから、正当として認容し、その余を失当として棄却すべく、また原告本野および原告小笠原の請求は、すべて理由があるから、正当として認容することとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文の規定を仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 吉 野   衛

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